台湾の伝統人形劇の保全、ロビン・ルイゼンダール
▲ロビン氏は台湾の人形剧に人生を捧げてきました。
【文 ジェナ・リン・コーディ】【编集 下山敬之】【写真 Samil Kao】
手使い人形をつかった人形剧(布袋剧)は、台湾の伝统芸能であり、観客の変化に合わせて现代化された数少ない郷土芸能のひとつです。今日では伝统と现代性が共存した内容になっています。かつての人形剧は神々や人々のために上演されましたが、人形を使ったテレビドラマは今も世代を超えて爱されています。台湾の人形剧は、热心な人形の操者や保存活动家をはじめ、世界的な関心を集めています。
ロビン・ルイゼンダール氏もその文化に魅了された操者の一人です。オランダ出身、台湾在住33年のライデン大学中国学の博士ロビン・ルイゼンダールは、昔は台原アジア人形剧博物馆馆长で、1997年台原芸术文化基金会の林经甫氏と协力し、台原人形剧団を成立した。博物馆は2020年に闭馆した。そのあと、林氏は国立台湾博物馆に人形剧関连の作品を一万点以上寄付した。
ロビン氏は台湾人形剧普及への多大な贡献により、台北市の名誉市民となり、2019年には台湾・フランス文化赏を授与されました。
▲ロビン氏が『マルコ・ポーロ』の人形を绍介している様子。この剧はロビン氏と台湾の国宝级のあやつり人形师、陈锡煌氏が共同企画したものです。
现在では台湾、日本、マレーシアのプロジェクトに积极的に参加しています。また、花莲にある国立东华大学で讲义をするかたわら、国立台湾博物馆に収蔵される林博士の搜集品の研究を続け、展覧会を企画しています。
▲『マルコ・ポーロ』言语はイタリア语と闽南语を使用しており、伝统と革新を组み合わせた新古典的な演剧となっています。
台湾での暮らし
ロビン氏は台湾に移住するまでの数年间を中国で过ごし、主に中国南部の人形剧と、1920年代以降の中国における宗教的・社会的変化との関连に着目したフィールドワークに取り组んできました。
「1991年に台湾へ渡ってからは、中国とは対照的な台湾の暮らしを満吃しました。中国社会を研究者から见て、台湾社会は宗教や社会関系を含め、元来の生活様式をより多く保っています。実に目から鳞が落ちる体験であり、ここがとても気に入りました」とロビン氏。
政治、文化、人形剧芸术の交わりについて、ロビン氏は「中国文化において、祖先崇拝や地域の寺院を中心とした宗教生活は欠かせません」と指摘します。长江以北では、中国共产党がこの重要な文化を根绝させてしまいました。「それは人生におけるある种の道徳的な罗针盘でしたが、私に言わせれば、まともに机能しない共产主义のイデオロギーに取って代わられてしまったのです」。
台湾の人形剧文化
ロビン氏によれば、人形剧は「民众芸术」です。これは台湾で最も一般的な现代演剧と伝统演剧の形态であり、现在は约200の剧団が活动しています。
伝统の観点から见て、その根强い人気の理由の一つに、この民众芸术が民众のためだけでなく神のためのものであるという事実があります。人形剧は、観客に向けた出し物というよりも神への奉纳芝居として、台湾各地の寺院で上演されます。実际、観客がまったくいない状态で上演されることもあります。
寺院の演目には、宗教的な前奏曲、地域社会や神々の祝福など、特定の要素が含まれます。世俗的な演目でも、似たような物语をたどり、神や仏など宗教的なキャラクターを登场させることもあります。ですがそこには、「地域社会との宗教的関系が欠けています」とロビン氏は言います。
実际、人形剧の演目において、様々な物语や场面に使われる典型的なキャラクターは、神々には喜ばれますが、必ずしも一般大众もそうであるとは限りません。「脱衣舞(ストリップショー)」というキャラクターは、演目の中で服を脱ぐシーンがあることから、通常の人形にはない胴体部分も再现されています。
「神々の嗜好は人间的なのです」とロビン氏は说明します。
宗教的な演目でも世俗的な演目でも人気があるのは「笑生」というコミカルなキャラクターです。ロビン氏によれば、「このキャラは金持ちの子供で、愚かな振る舞いをし、女性からはモテず、下流阶级の人には意地悪で、上流阶级の人にはへつらいます。日和见主义の小贤しいやつですが、とても面白い」とのことです。
また、男性、女性のキャラクターも存在します。例えば、科挙の试験を卒业した男と、美しく辛抱强いが、苦労をしているその妻などです。ロビン氏によれば、「これは中国文化における役割のようなもので、男性として、女性としていかに振る舞うべきか、そして伝统的な中国社会の特色を丸ごと、下品なユーモアを交えて表现している」と说明します。
台湾における人形剧の観察と実践
台湾は人形文化の保全において重要な存在です。「台湾が他国と异なるのは、1960年代以来、人形剧のテレビシリーズ、映画が続いていることです。台湾はコンビニで人形剧のDVDが买える唯一の场所なのです」。
台湾の人形剧はごく自然に発展してきました。それから日本映画やアメリカ映画の影响を受け、ロビン氏が言うところの「非常にポストモダンな演剧」が生まれました。
ロビン氏はさらにこう続けます。「1950~1960年代には、舞台上ではほぼなんでもありという、非常にクリエイティブな时代がありました。ベートーヴェンの楽曲や『ハワイ・ファイブ・オー』のテーマが使われるようになりました」。
台湾における手使い人形の姿もまた、长い年月を経るうちに大きな変化を遂げました。かつては雕刻された小さな头が当たり前であり、小さな目が美しさの基准の一つでした。最近の人形には、目が大きくて腭が细い、K-POPスターのような见た目のものが増えています。
▲韩国のK-POPの影响により、人形の颜も以前よりほっそりした形に変わってきています。
1950年代から1960年代にかけて、台湾式人形剧は多くの芸术的进路を开拓し、その歴史は大きく発展しました。「非常に奇妙なキャラクターや人形が作られていましたし、现在も作られています」と话すロビン氏。
▲ロビン氏が人形の颜の変迁を绍介している様子。
オランダで演剧を学び、若くして国を出た彼の関心は、长年住んでいる台湾の人形剧の芸术を守ることにあります。もともと人形剧を学ぼうと思ったのは、「音楽、雕刻、刺繍に関连していて、谁も知らなかった草の根的なものを勉强したかったから」だそうです。
台湾においては外国人であることは「异质」ですが、长年住んでいるとそれが当たり前になってしまったとロビン氏は言います。彼は、このように顺応することが难しいと感じる人がいることも理解しています。
台湾での30年间、ロビン氏は台北市中山堂、国家両庁院、西门红楼など、国内のほぼ全ての著名な会场で公演を行ってきました。
他のプロジェクトに加え、彼が现在取り组んでいる、来年の台南市设立400年记念式典のためのミュージカル演剧は、台南の赤崁楼と台北で上演される予定です。
グローバルな観众を目指して
ロビン氏は台湾国外においても、台湾人形剧を海外の観众に绍介することを目的とした多くのプロジェクトに携わっています。マレーシアではペナンに小さな美术馆を设计し、日本では大阪で伝统芸能ー伝统芸能のキュレーターを育成するためのパフォーマンスとワークショップを展开しています。
国际的に人気を集めたパフォーマンスとして、ロビン氏は日本统治时代から现代までの台北の物语を描いた2000年代の作品『台北古城』を挙げています。注目すべきは、パフォーマンスが全てミュージカルという点です。
▲『台北古城』は台南市设立400年记念式典で上演されます。
このショーはすでに上演されていませんが、人形剧に兴味のある人は、2024 年 4 月の台南市设立400年记念式典に向けてあらかじめ计画を立てておくとよいでしょう。
现在様々な课题に直面しているとはいえ、台湾の人形剧は、世界の観众を魅了する大きな可能性を秘めています。アジアでは伝统的な人形剧の娯楽としての価値は下落倾向にあります。人形剧に参加する多くの子供は、「手使い人形剧は一度见たから、もう见なくていい」と感じるのではないか、とロビン氏は考えています。娯楽としての机能を维持することは简単ではないのです。
そのため台湾やアジア全域での保全活动が不可欠ですが、世界的な関心もまた重要であり、それがロビン氏の热心な取り组みの原动力なのです。